7月8日、博多駅周辺の冬期イルミネーションを念頭において、照明デザイナーの松下美紀氏に「都心街路の夜間景観づくり」と題して、事例紹介を交えながら、照明計画の考え方をご説明頂き、意見交換を行いました。また、福岡市都市景観室より、「街路樹イルミネーションのあらまし」として、実施要件や県警許可基準の解説を頂きました。
以下は、意見交換の内容も含む、要約です。
【都心街路の夜間景観づくり】松下美紀氏(福岡市都市景観アドバイザー)
■照明計画のトレンド ~ エコがクローズアップ
福岡市都市環境照明計画ガイドライン(1992)の作成から福岡市の夜間景観づくりに携わってきました。照らされるものがあっての照明計画であり、ムダなものをどうやって削っていくかという考え方が、漸く理解されるようになってきました。
近年の照明器具の進歩は目覚ましく、電子制御で細やかな演出が可能となり、消費電力も劇的に少なくなっています。環境問題の深刻化など、照明計画にも要求されるものが時代と共に変化しています。ガイドラインも時代の変化に合わせて進化すべきでしょう。
■日本人の光感(ひかり感) ~ 気候によって変わる美意識
ひかりに対する美意識は、その地域の気候や地理的条件によって、大きく変わってきます。モンスーン気候の国土に暮らす日本人は、「おぼろ月夜」などの言葉に代表されるように、曖昧でぼんやりとした光を好みます。従って、地中海性気候の南ヨーロッパなどで好まれる、クッキリとした演出照明をそのまま日本に持ってきても、うまくいかない場合があります。
■光を考える視点(点・線・面) ~ 機能と演出のバランス
まちなかの照明は、防犯や安全性などの機能的に求められるものと、楽しさや美しさなどの演出的なものとのバランスが重要です。また、近景・中景・遠景のように、通りとしての光の連続性や、俯瞰した時の街並みのバランスまで考慮して、その街のイメージを形作るように計画されるべきです。
更に、赤坂の市道826号線の自転車専用道を含む街路照明計画のように、照明の心理的な働きを利用して、交通事故を減らしたり、ハンディキャップのある人達でも動きやすい道路空間のつくり方にも、照明の役割は広がっています。
■ストーリー(物語り)づくり ~ ないならつくる
雲仙では、ガイドラインの作成からはじまり、「あかりの花ぼうろ(霧氷)」としてのライトアップイベントに関わってきました。当初、テーマとなる地域の資源を地域のみんなで探したのですが、暗いお話しか出てこなかったため、童話をつくるという作業からスタートしました(くろい山:ポーランドの絵本画家ユゼフ・ヴィルコン)。十数年経ち、地域の意思統一も図られ、キャンドルイベントとして参加型メニューも活性化してきました。キャンドルの灯を大事にするために、逆に演出照明は抑えていこうという動きになっています。
ストーリーがみんなで共有できると、次にどこを誰がどうすべきかという課題が明確になっていきます。予算からやれることを考えるのではなく、近い将来にまちがどうなるべきかという計画づくり・物語りづくりから始めることが、結果的に持続的な夜間景観づくりに繋がります。
■市街地の通りのイルミネーション ~ インフラとして対策する
ヨーロッパの街のクリスマスイルミネーションは、通り毎にデザインを競い合うように、道路上空を跨いでイルミネーションオブジェを吊るしていくものをよく見かけます。外壁のフックや街灯などの構造物を利用して、連続的に設置されています。
日本でこれを実現するには大変ですが、建物や街灯の建替え時に、アンカーや電源を対処しておくなどの計画を地域でまとめあげ、時間を掛けてトライしてはどうでしょうか。そういうときにも、ガイドラインの役割が重要になってきます。
■はかた駅前通りのケヤキ ~ 通りのシンボル
ストーリーづくりやガイドラインづくりは、その地域に特有で、ほかに真似の出来ない資源や資産の価値を高めることに力点を置くべきと思います。駅前通りには、ドーム状に車線に被さり大きく成長した立派なケヤキ並木があります。街灯も良いピッチで連続しています。これらの良さを活かした計画づくりを、みなさんで始めては如何でしょうか。
また、実績を積み重ねることで、規制も緩和されていきます。何れにせよ、何もしなければ何も産まれないことは明らかで、みんなで良いものを探して、みんなで考えて創っていくことが、唯一の方法だと思えます。
■アンケート抜粋(主旨を汲んで校正しています)
Q1:今回のセミナーで共感できたことや気付いたことは何ですか
・ストーリーづくりと長期計画が大事であるということ。
・照明の高効率、長寿命、省エネが必要。ただしデザインの重要性を忘れない。
・日本がモンスーン気候にあり、曖昧なものに美意識を感じるという考え方に大変共感しました。
・光の特性、照明の見せ方などの技術について色々なものがあることがわかった。
・経済性や効率化など照明機能の高度化は良いことだと思う。
・都市戦略として、都心の重要な通りの夜間景観づくりを推進すべきである
・景観室が民間事業を誘導する程度では全く足りない。
・土木局などがインフラとして景観計画を地域と共につくり、整備していくべきである。
Q2:聞き足りない、話し足りないと思ったことはありましたか
・博多駅前の景観(イルミネーション)についての具体的な提言が欲しい。
・環境に配慮した事例などをもう少し知りたい。
・「必要な照明」をいかに「みせる照明」に転換していくかの事例
・景観室が都心のイルミネーションを推奨して規制を緩和していこうという姿勢が曖昧
Q3:魅力的な夜間景観を創出するために、まちづくり協議会がやるべきことは何ですか
・予算の中から、ストーリーづくりやそれに必要なコンサル料にいくらか割いても良い。
・ストーリーづくりは、まちづくりガイドラインの作成を待たなくても、同時並行で進めることができる。
・より多くの人が納得できるストーリーづくりが今後の発展に繋がる。
・全体的にも部分的にも統一性を持たせたガイドラインなどを作成する。
・エリアで連携を深め統一性を持たせる。
・民間のみで事業を拡大し維持し続けることは困難。公共的な社会資本投下に繋がる活動が必要。
その他
・長崎のグラバー園登り口の照明は素晴らしい
・専門的で分かりにくい部分があった
文責:福岡地所 溝口