昨年秋のシンポジウムでの藻谷氏の基調講演のなかに「九州新幹線は福岡成長の終わりの始まり」という言葉がありました。福岡の成長時代も終焉間近であり、成熟時代に向けた準備を今からやっておくべきだということでしょう。しかし、この「成熟へ向けた準備」にはビジョンと戦略が必要です。単なる倹約と先送りでは、資産を食い潰して行くことに変わりはありません。行財政が厳しいからこそ、まちの資産を磨きバリューアップさせる投資と、その成長管理のシステムが求められるべきです。
殊に、地方中核都市の都心に求められる高度都市機能集積や都市環境の豊かさを志向するまちづくりの姿勢は、ますます激化する都市間・地域間競争を生き抜く上で重要な役割を担います。いろいろな視点や立場から「魅力ある都市とは何か」「産業として捉え直すべきものは何か」といった課題を浮き彫りにし、実現可能なビジョンを共有することが大切です。そういった意味で、年頭の新聞紙面に取り上げられたディズニー誘致候補都市の話題は、市民に「エンターテイメントのまちづくり」を示唆する良い契機になったのではないかと考えています。
コンパクトシティ福岡の本領発揮
国土づくりの大きなトレンドとして、積極的に都心を高密度化することで、都市機能の効率化や環境負荷の低減、過度に自動車に頼らない交通システムの構築といった「コンパクトシティ」への取り組みが始まっています。このことは、無秩序に郊外へ膨張する市街化の反動として起こる都心部の荒廃や空洞化の反省から起きたもののようです。福岡のまちは、コンパクトシティと呼ぶには大き過ぎますが、都市構造の志向性としては取り入れて行くべき考え方でしょう。
もともと福岡のまちは、海と山に囲まれた都市構造により、海空のターミナルも都心に近接し、140万都市としては都心域がコンパクトにまとまっています。このコンパクトな都心部全域を都市型テーマパークと捉え「エンターテイメントシティ・FUKUOKA」を標榜してはどうでしょうか。天神の商業集積と博多部の歴史、臨海部のコンベンション集積や新しい博多駅とキャナルシティなどを拠点として、それらを連繋する都市空間や交通システムをはじめ、祭りやスポーツイベントや人々のサービスまでをも都心全体でネットワーク化し、磨き上げていくことで、他都市には絶対に真似のできない福岡だけのまちづくりができるのではないかと密かに考えています。
エンターテイメントとは生活環境の質の高さ
わたしがいうエンターテイメントは、単なる観光客むけの娯楽要素のことではなく、地域に関わる生活環境の豊かさ全般のことです。しかもそこには、刺激性や人との関係性の共有といった体験的な要素が必要なのです。一人でも楽しめるけど、一人よりも二人で、二人よりもみんなで楽しめるような「居場所やコンテンツ」の豊富さがまちのエンターテイメント性の高さにつながります。そうした「居場所やコンテンツ」の魅力を繋ぐ空間(シーケンス)としてパブリックスペースを再考できればより効果的です。
また、「観光とは、地域の光を見ること」と定義できるそうです。その意味では、観光もエンターテイメントもまちづくりに通じます。地域の光が多いほど、またその質が高いほど、わたしたちの生活の質も高まっていきます。福岡といえば「エンターテイメントシティ」という、本質的な理解のもとに、国際的にも観光都市としてイメージが定着する時代が、遠からずやってくるのではないかと考えています。
権限を自主財源に
昨今、全国のまちでまちづくりに関わるNPOや市民団体が誕生し、まちづくりに対する市民の意識が急速に高まっているようです。それと同時に、まちづくり団体の成功事例の少なさや、活動継続の困難さも伝え聞くところです。なぜでしょう。リーダーの不在なども要因でしょうが、突き詰めていくと、財源と権限の無さに辿り着きます。どちらも国の仕組みの構造的な問題です。行政は特定の地域にだけ贔屓するわけにはいきません。行財政が逼迫する中で、行政頼みの活動には限界があることは明確です。それでどうなるかというと、権限を委譲してくれという話につながります。権限を財源に換えれば良いわけです。ということで、全国各地で権限をまちづくりの財源に換える試みが模索されているはずです。
福岡市でも、都心部機能更新を促進するための容積緩和の方策が検討されています。単なる建替え促進ではなく、その中身の機能を誘導しようとする考え方です。当準備会でも、その緩和条件として、本組織で策定予定の「まちづくりガイドライン」に沿うことなどを意見として提出しました。地域で合意した大義のもとに、地域へ権限を委譲すること。これが実現できないと長期的・継続的なまちづくり活動は難しいのでないかと感じています。
大義の創出
まちづくりとは、言い換えれば、わがとこに良いように「偏り」を創りだそうとする活動です。その偏りを認めるには、より大きな視点での大義が必要です。その大義は、福岡市が、これからの成熟時代に向けて何を拠り所にして生きて行くのかという都市戦略と密接に関係します。
かねてから民活とセットで「アジアの拠点都市」を掲げてきたように、まちづくり戦略の一環として「エンターテイメントシティ」を都市像としてイメージを共有できるならば、景観づくりや交通システムと歩行者ネットワークの在り方、土地利用方針などの曖昧で大きな都市の課題に対して、明快な道筋をつけることができるでしょう。
以上は、あくまでもわたし個人の考えです。このような、様々な立場の意見を包括して地域の意向としてまとめあげ、現実に動かしていく活動は、地道で根気の要る作業です。たくさんの協力者が必要であることはもちろんですが、特筆すべきは、プレーヤーの多い大都市のまちづくり組織においては、小さな田舎町とは違い、ワンマン的な過剰なリーダーシップが悪影響を及ぼすということでしょう。「誰かがやる」のではなく「みんなでやる」という基本的なスタンスを徹底できるかどうか、決まったことに協力するという当たり前のことが、本組織へ移行する時点で一番大事なことではないかと考えています。
福岡地所株式会社
開発事業本部 溝口直美