1.間近に迫まった九州新幹線時代の幕開け
2007年12月1日。九州新幹線整備の上で1つの節目となる出来事がありました。筑紫トンネルの貫通式です。九州最長11,935mの克服、断層破砕帯を含む複雑な地質構造への挑戦、地表水利用への影響が懸念される中の大量の地下水処理。これらから、本トンネルは一連の工事の中でも最大の難関とされてきました。そのトンネルが、延べ31万6千人に及ぶ工事関係者の努力と5年の歳月を経て貫通し、福岡と佐賀の風が吹き抜けました。これで九州新幹線開業に目途が立ち、その足音が間近に迫ったことを実感します。
新幹線工事はいよいよ最終段階に入り、その目玉は駅および駅地区の整備です。駅は鉄道利用者が訪れ、多彩な人々が交流するまちです。その意味では、安全・安心は当然として、利便性、快適性、面白さ、ヒューマニティなどで、駅に集まる全ての人々を満足させることが求められ、またあらゆる人に優しくなければなりません。
そしてその目玉が、九州新幹線の起終点であり、西南日本の玄関である博多駅地区の整備です。博多駅・同地区のまちづくりとその運営が、訪れる人々や迎える市民にとってどのように満足いくものになるかは新幹線整備の成否を決するものといえます。
2.次世代都市福岡の顔となる“博多駅地区”
博多駅地区は、今後の福岡のまちづくり、都市構造の上で極めて重要な戦略ポイントです。地理的条件からアジアのゲートウェイとなることが求められる中で、空港、鉄道駅、港が横一線に並ぶ福岡国際軸の真ん中に博多駅が存在します。また、広域的な我が国の交流社会形成の要の位置に博多駅地区があり、そのポテンシャルを生かすことは西南日本の活力を向上させる上で不可欠です。さらに、天神と博多駅を結ぶことで福岡の都市構造上の拠点形成を確たるものにすることができます。
このようにみれば、博多駅地区は福岡都市圏の中でも極めて重要な戦略拠点であるといえます。ポテンシャルを高めて質を向上させ、広域化、国際化する都市の中では、やがて天神地区をしのぐ活動拠点になるものと予見され、今後にその重要性を増すことはいうまでもありません。その意味では、福岡が次世代都市として生き残るカギは博多駅地区のまちづくりにあり、あるいは、博多駅地区のまちこそが次世代福岡の顔になるといえます。
3.人のぬくもりがある駅地区まちづくりを
それならばどのような駅地区のまちづくりをすればよいかということになります。この点に関して、特に強調いたしたい点を5項目にまとめれば次のとおりです。
① 国際化し、広域化する次世代の都市の顔を持つ“ゲートウェイのまち”であること
② 人こそが主体であり、訪れる人、迎える人が互いに交流する“ぬくもりのまち”であること
③活動し、情報を発信し、躍動する“創造豊かなまち”であること
④単なる経済合理性を追求するだけでなく、歴史と文化を重要視し、持続的に発展する“本物のまち”であること
⑤駅と周辺地域の回遊を促進し、またそれを核にして隣接する諸地区との回遊や、都市圏さらには九州の諸地域と“多彩に連携するまち”であること
要するに、博多駅地区のまちは、訪れる、活動する、暮らすといったあらゆる人々に優しい都市であり、互いに交流する賑わいの文化創造の都市であることです。そうした都市を目指して、市民みんなで創り上げることを大いに期待するところです。
樗木武 プロフィール
九州大学工学部土木工学科卒業。日本国有鉄道、長崎大学を経て九州大学教授。2002年退官、九州大学名誉教授
・現職(財)福岡アジア都市研究所理事長、道守九州会議代表世話人など
・審議会等:福岡市都市計画審議会会長、福岡空港調査委員会、福岡県土木部建築都市部公共事業再評価検討委員会委員長、北部九州圏都市交通計画調査専門委員会委員長、福岡県交通対策協議会会長、九州財務局国有財産九州地方審議会委員、九州運輸局九州地方審議会委員など
・賞罰:アジア交通学会最優秀論文賞、日本都市計画学会功績賞など
・著書:都市計画(森北)、ユニバーサルデザインのまちづくり(森北)、道路と計画のデザイン(共立)など